旅へのいざない

先日お茶会を開催し、そこで「海」と「旅」というキーワードがでた。

それは誰かへのメッセージであって、私のではないとやり過ごしていたら、ある時気づいてハッとした。

というのも、思い返せばそれはあまりにも頻繁に、私の心をノックしていた。

呼びかけといっても、いいくらいに。

 

気づいたとたんに、かきむしられるように想いが募り、

寂寥感に、襲われた。

 

これまでに海と対峙した、さまざまな場面が思い出された。

沖縄の、なんの迷いもないような透明な海。

けれどそこここに点在する、どうしようもない悲しみ。

 

尾道の坂の上から眺める、穏やかな、春の日なたのような、瀬戸内海。

どこまでもあたたかく、ゆるされている気持ちになる。

 

ただ海沿いを歩くだけで、さわやかに、でも少し切なくなってくる、由比ガ浜。

江ノ電の鎌倉高校前駅で降りると、目の前いっぱいに広がる夏の海。海風で心洗われる瞬間。

 

どのシーンも思い浮かべるたびに、たまらなく心掴まれて、

少し苦しくなる。

 

きっとこの夏、多くの人が旅へといざなわれ、

それぞれのゆかりのある土地と、思い出を結ぶだろう。

 

そうやって何かが少しずつ進み、

うごめき、

心ときめいたり、

切なくなったりしながら、

 

今という一瞬が、

どんなに素晴らしくても、

とどめておくことなどできずに、

刹那に過去の思い出になってしまうという

 

その現実の儚さと

けれど思い出として永遠に刻印されるという

その幸福の

どちらも味わうだろう。

 

どこからともなくやってくる、

旅へのいざない。

 

あなたも、ひとたびいざなわれたのなら、

抵抗などせずに、足を運んでみたらいい。

失うものなど、ほんとうは、何もないのだから。

 

旅の気配に取り憑かれたら、

やもたてもたまらないような、

そんな気持ちにしてしまうのが、

夏というものの持つ

不思議な魔力なのかもしれない。