冬の記憶

軽井沢といえば夏の避暑地としての爽やかな印象が強いかもしれないが、私にとっては真冬の雪深い時期の方が思い出深い。静かに雪が降り積もっていく厳粛な雰囲気とその風景を思い出しながら、あの頃の自分の心情までもがある種の感慨を伴って目の前に浮かび上がってくるのは、今日の都内の寒さが私の体感覚を呼び覚ましたからなのかもしれない。

私は恋人と二人で、冬の軽井沢を訪れた。そこがこんなにも雪深い土地だとは知らなかった私は、大型ショッピングモールを有するリゾート地としての華やかさの裏に、少し時代遅れになってしまった悲哀のようなものを感じつつも、時を経ても変わらず雪や寒さという現実的な問題に黙々と対峙し続けてきた、その土地の人々の実直な暮らしぶりを垣間見た。

私達は落ち着いたモダンな設えの蕎麦屋に入り、そこで温かい蕎麦を食べたり日本酒を熱燗で頼んだりしながら、大きな窓ガラスに映る雪降り積もる外側の世界を静かに眺めていた。きっと都内であればパニックになるだろう雪の量であったが、軽井沢の街はいつもとさほど変わらぬ風情でただ息を潜めて、粛々とその営みを続けていた。それがあの土地が湛えている独特の強さと静謐さなのだった。

雪が降り止まぬなか、その後私達がどこへ行ったのかは忘れてしまった。けれど、あの果てしない雪景色としんとした土地の空気、そしてあの頃の心情は確かにこうして私に中にあり続け、ふとした拍子に浮かび上がり、なんとも言えない温かさと幸福感をもたらしてくれる。それは過ぎし日への思慕でもあり、場所というものが湛える不思議な記憶であり、私が魅かれてやまないものたちなのである。